禁断の果実

1.穏やかな日々









刹那の部屋で、マリナは彼に勉強を教えていた。

「ここでもう1回微分するの。」

「・・・分かった。」

そう言って刹那はもくもくと数学の問題を解き始める。

これはイスマイール家のいつもの風景。

平日はほぼ毎日マリナが義弟である刹那の勉強を見てやっていた。

義弟と言うは、刹那は8年前に孤児院からイスマイール家に引き取られたからである。

イスマイール家は有名な資産家であったが、マリナの両親は病気によって早くに亡くなったため男児がいなかった。

そこでイスマイール家を継がせるための男児をマリナのおじいちゃんが探し、そしてそれが刹那だったのである。

引き取られた当初、刹那の成績は中間くらいだった。

しかしそれではいけないという事で、マリナが刹那の家庭教師役をやる事になったのである。

またこの行為は刹那の成績を伸ばす事になったが、義姉弟のコミュニケーションの手段の一つともなっていたため、

刹那の成績が順調である今でもなお継続されているのであった。

「・・・じゃあ今日はここまでにしましょう。」

「ありがとう、姉さん。」

「どういたしまして。」

いつものように微笑みながら、続けてマリナは言う。

「おやすみなさい、刹那。」

「おやすみなさい。」

そしてマリナは自分の部屋へと戻り、それぞれ床につくのであった。









二人にはもう一つ、お決まりのコミュニケーションの手段がある。

イスマイール家は有名な資産家なだけに、その家も豪邸と呼ぶに相応しいものであった。

豪邸に広い庭は付き物で、無論イスマイール家も例外ではなく、広々とした庭が存在していた。

その庭で刹那とマリナは土曜日の昼はランチを二人で取る、これがもう一つのお決まりのコミュニケーションだ。

そして今日はまさしくその土曜日である。

二人は庭のテラスで昼食を食べ終わり、木陰に座ってゆっくりとした時間を過ごしていた。

「今日は晴れて良かった・・・。」

優しい風が庭の草花を揺らすのを眺めながら、マリナは続けて言う。

「先週は大学の特別講習があったから一緒にランチをとれなかったもの。ごめんなさいね。」

「いや、いいんだ。」

暖かな日差しが庭を照らし、まるで天国かとも思えるくらい美しい空間に二人は包まれていた。

しばらくして刹那は無言のまま、座っているマリナの太ももへと頭をのせ寝転がる。

マリナも拒否する事なくそれを受け入れ、刹那の頭を撫でてやる。

「・・・姉さん。」

「・・・何?」

「・・・いや、何でもない。」

「そう。」

マリナはそう言って刹那に微笑みかける。

そして刹那はそのまま瞳をとじて、眠りについたのだった。









今はまだ姉と弟の二人。穏やかな時が流れている。









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