禁断の果実

13.天国と地獄









マリナは刹那の部屋を出ると、いったん足を止め、1回深呼吸をする。

―――「もっとゆっくり・・・進もう。」

刹那が言ってくれた言葉を思い出し、途端に幸せに満ちた感情があふれ出してくるのをマリナは感じた。

こんなにも幸せだと感じた事が今まであっただろうか。

少なくとも今のマリナには、これまで生きてきた中でいまが1番幸せだと思えた。

そしてマリナは再び歩き出したのだった。

しばらくしてから、マリナはメイドからの伝言をふと思い出す。

―――そういえば…おじいさまの部屋に行かなくちゃいけなかったわ。









コンコン

「おじいさま、マリナです。お呼びですか?」

するとドア越しから、年老いた男のくぐもった声が聞こえてくる。

「あぁ、入りなさい。」

マリナはドアを開け、部屋に入った。

そこは部屋中の壁が本棚で埋まり、様々な本を暖色系のやわらかなライトが照らしていた。

その他には木製の机と椅子が1つずつと、ワインレッドのやわらかそうなソファがひとつある。

そしてマリナの祖父は木製の椅子に座り、眼鏡をかけ机に本を広げていた。

「おじいさま、相変わらず本がお好きなんですね。」

くすっとマリナは笑いながら言う。

「そうだな。おかげでこんなに本が増えてしまったよ。わたしの宝物だ。」

そう言いながら彼は、視線を呼んでいた本から壁を埋めている本棚へと、

そして本棚からマリナへと移し、手元に置いていた本を閉じる。

「マリナ、そこへ座りなさい。」

何か大事な話があるのだと直感的に思った。

マリナはソファに座り、祖父の方をじっと見つめ、祖父が話し始めるのを静かに待った。

「…マリナ、今日はお前に大事な話がある。」

祖父の言葉をゆっくりとマリナは待つ。

「お前はイスマイール家の立派な長女だ。そろそろ然るべき相手と結婚の話をすすめていこうと思うのだ。」

「!・・・そんなっ・・。」

「ちょうど会社のお得意先から良いお話をもらっている。」

予想だにしなかった。結婚の話など。

「そんな・・私は・・私は・・・。」

今のマリナは、刹那以外の男と付き合うことは考えられなかった。ましてや結婚となると尚更だ。

「誰か付き合っている男がいるのか?それならば紹介しなさい。」

「・・・・・。」

言えるはずが無かった。刹那との仲を…。

刹那との仲を言ってしまえば、もしかしたら彼はこの家から追放されてしまうかもしれない。

そしたら刹那と会えなくなってしまうのでは・・・彼の住む場所は?・・・学校にも行けなくなるのでは・・・。

マリナの頭の中を悪い考えばかりが浮かぶ。

「相手によってはお得意先の話を断っても良い。どうなんだ?他にいるのか?」

「・・いいえ、いません・・・おじいさま。」

「それならお得意先の話を受けようと思う。断る理由もない。良いか?」

「・・・はい。」









―――どうしたらいいの・・・刹那・・。









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08.12.24