禁断の果実
3.悪夢と女神
刹那はマリナに無理を言って勉強を見てもらいながらも、始終ムスッとした態度だった。
「刹那?・・・一体どうしたの?」
「・・・別に。」
「別にじゃないでしょう?いつもと雰囲気が違うもの。」
「・・・本当になんでもないっ・・・!」
そう言いながらも、刹那の心は穏やかではなかった。
マリナがグラハムと帰宅したのを見てからずっと心の中にわだかまりを抱えていた。
「さっきから勉強に集中できてないみたいだし・・・ほら、ここ。また間違えてる。」
「・・・うるさいな・・・っ。」
「刹那、いいかげんにしないと姉さん、怒るわよ。」
「やっぱり今日はもういいっ・・・姉さんは自分の部屋にもどってくれっ・・・。」
「一体どうしたの?いいから姉さんに話してみなさい。」
「本当にもういいっ・・・出ていってくれっ・・・。」
刹那はぶっきらぼうにそう言うと、マリナの腕をつかみ、彼女を無理やり部屋から出した。
「えっ、ちょっと・・・?!」
マリナを完全に部屋から追い出し、刹那は自分の部屋のドアをバンッと閉めた。
「もう・・・姉さん知りませんからねっ。」
マリナはドア越しにそう言って自分の部屋へと去っていった。
刹那はドアに背を向けたまま、一人悶々とした。
―――姉さんが悪い・・・。あんな男のどこがいいのか・・・。
刹那はハッとする。
―――もしかして自分は嫉妬しているのだろうか・・・。
「・・・いや、違うっ。そんなんじゃないっ・・・。」
自分に言い聞かすようにそう言うと、刹那はバッと倒れこむようにしてベッドに入り、
そしてそのまま眠りについたのであった。
刹那は夢を見た。
目の前でマリナが微笑んでいる。刹那は彼女の頬に触れようとした。
その途端、地面が崩れ去り、その中に刹那とマリナは埋もれてゆき、次第に刹那はマリナの姿を見失ってしまう。
刹那はもがき苦しみながらも必死にマリナの姿を探した。
―――・・マ・・リナ・・ッ・・・!・・・マリナッ・・!!
「・・な・・せつ・・・刹那っ・・・大丈夫?!」
刹那はハッと夢から覚めた。するとそこにはマリナがいた。
「・・・姉さん・・・。」
「気が付いたのね。良かった・・・。」
「ちょっとお水を飲もうと思って部屋を出たの・・・そしたらあなたの喚き声が聞こえて・・・。」
マリナは心配そうな顔をしながら、刹那の頬に優しく触れる。
「本当に大丈夫?・・・お水持ってくるわね。」
そう言ってマリナがベッドから離れようと腰を浮かせた瞬間、刹那はマリナに抱きついた。
「・・・刹那?」
「・・・もう少しだけ・・・。」
刹那はマリナの背中に回している腕にさらに力をいれてギュッとする。
マリナもベッドに再び腰をおろし、刹那の背中をポンッポンッと優しく叩いてやる。
香ってくる彼女の優しいにおいに、刹那は安心し、そして気付いたのだった。
―――あぁ・・・俺はこのひとのことが好きなんだ・・・。
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